Q.ドッグフードに穀物を使用していると犬は消化できないと聞いたのですが本当ですか?

Q.ドッグフードに穀物を使用していると犬は消化できないと聞いたのですが本当ですか?

A.いいえ。α(アルファ)化した穀物(でんぷん)は十分に消化できます。

このご質問はグレインフリーのドッグフードのサイトを見てご心配されたお客様からのものです。

犬も人間と同じく健康で長生きする為には病気の予防と同じくらい食事の管理が大切になってきます。

「ドックフードだから犬の健康を考えて作っているのでしょ?」

もちろん、メーカーとして製造していたり、販売しているのであれば、最低限勉強していると思いますが、どうもそうでもないところもあるようです。

販売している販売店が間違った情報を書けばドッグフードのまとめサイトやドッグフード情報サイト、ドッグフードランキングサイトなどを運営している個人や企業のアフィリエイト業者さんはそのまま信じてコピーして記事にしてしまいます。
この結果インターネットで検索した一般の飼い主さんに誤解を与えるようなグレインフリーの記事が大量にネット上に見られます。
残念ながらseo対策などの技術力もそうした方の方が優れていますのでドッグフードで検索してもこうしたサイトが上位を占めているような状況です。
インターネットは気軽に検索できるのでとても便利ですが、気を付けなければならないことがあります。
よく見られるのが
「情報の一部だけを切り取って伝える、一部だけを誇張して伝える」
これは、グレインフリードッグフードのサイトで言えば、

「犬は唾液の中にアミラーゼ(αアミラーゼ)が無いのででんぷん(炭水化物、穀物)は消化できないから穀物を使用しているドッグフードはよくない(または穀物には栄養価値がない)」

というくだりです。

メーカーとしてそれぞれポリシーはあると思いますが、穀物は使いたくないというのであればまだ「そうなのか」と思いますが、う~んせめて専門書の1冊は調べてみるということはできなかったのか残念です。

これはほかの商品との差別化や違いを強調する為に情報の一部だけを切り取って誇張したよく見かける手法ですが、実際にはこの説明は間違いです。(アミラーゼの話をするというのであれば、サツマイモも炭水化物ですし、でんぷんの塊です。)

人間ではα化されたでんぷんは口に入れて咀嚼(よく噛む)時にだ液の中にある消化酵素であるαアミラーゼによって分解され、デキストリンやマルトースになります。
しかし、犬ではだ液中にでんぷん分解酵素であるαアミラーゼがありませんのでこの時点では分解できません。(ここまでは合ってますが、この先の情報が欠損しています)
犬が食べたでんぷんは直接十二指腸までそのままの形で到達します。(ここからが重要です)
その後、でんぷん(多糖類)は膵臓から分泌されるαアミラーゼによってマルトース(二糖類)に分解され、また小腸粘膜のマルターゼによってグルコース2分子(単糖類)へと分解され小腸で吸収されます。

穀物が消化できないというのは売りたいが為に悪意があって書いているとは考えたくありませんが、生物学的にも間違った情報です。
最初に誰かが書いた文章を真偽を検証せずに大勢の方がコピーした文章が増殖したのでしょう。
一般の飼い主はその情報を見て判断するので責任をもってほしいです。

しかし、この説明でもここで終わってしまうと不完全です。
穀物と書きましたが、人間も犬も生米のようなβ(ベータ)でんぷんは消化しにくいと言うか、ほぼ消化できないので未消化のまま小腸や大腸に移行し下痢を起こします。
ちなみに猫はαアミラーゼの活性が非常に弱いのですが、十分にα化させたでんぷんであれば消化できます。
ただし、やはり犬に比べると消化は得意ではないので、あまり炭水化物を多く取り過ぎると消化不良や体調不良の原因となるので注意が必要です。

そもそも犬と狼は似て異なる生き物です。
太古の昔から現在に至るまで肉食獣の狼にとって人間は獲物であり敵です。
しかし、数万年前に狼の中に人間に懐くモノが出てきました。
人間から餌を貰う代わりに狩りを手伝ったり、他の狼などの肉食獣から人間や家畜を守る番犬になったりし、良好な関係を築きあげてきました。
その内、人間が狩猟中心の生活から穀物を育てる農耕中心に変わっていく1万年以上の長い共同生活の中で、穀物を消化できる能力を持ったモノの遺伝子が生き残り進化し、今の犬の祖先になったと言われています。

犬が穀物を消化できるのは人間と共に生きてきた証でもあります。
それに対し猫が人間に飼われだしたのはもっと後だと言われています。
穀物を食い荒らすネズミを退治する為に飼われだしたのが最初だと言われていますが、基本的に飼われていたと言ってもネズミを捕食する生活でしたのでほぼ肉食のまま今に至っています。

私も、主原料のタンパク質源は新鮮で良質な肉で与えたいと考えていますので、タンパク質を肉骨粉や植物性タンパク質中心で配合しているドッグフードよりは良質な肉を原料を使用したドッグフードの方が共感できます。
しかし、大手ペットフードメーカーのドッグフードを全否定しているわけではありませんし、リスペクトしている面も多大にあります。
私がドッグフードについて調べたり、勉強する栄養学の専門書はこうした大手メーカーの研究所や獣医大学で優秀な獣医師達の長い年月をかけた研究と多くの動物たちの犠牲の上でできあがっているからです。

そのうえで、自分たちで仮説を立てより犬の健康にとってベストなドッグフードとは何か追求していくのが私は正しい姿だと思いますし、アミラーゼがある、ないという話は調べればわかる話です。

もう一度書きますが、肉食である狼と雑食の犬は違う生き物です。
そして、穀物のでんぷんが消化できない、栄養価値がないというのは誤った情報です。

犬の三大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)の必要な配合は人に近いと言われています。

 

臼歯の数から犬が雑食であるという専門家もいるそうですが、もう一つ特徴的なのが腸の長さです。肉食である猫よりの雑食の犬の方が体長に対しての腸の長さで1.5倍も長いのです。

更に犬が雑食であることの特徴としては虫垂(盲腸)の形状です。
虫垂は食物中のセルロースを分解するバクテリアの生息場所であり、草食動物などが草や穀物を消化するには欠かせない臓器ですが、猫の虫垂は短くほとんど機能していません。これは猫が肉食動物だということを証明していますが、犬が猫よりも大きく勾玉形の虫垂を持つことは犬が雑食性であることを生物学的にも示しています。

穀物(でんぷん)を分解してできる糖は多すぎると肥満などの原因にもなりますが、不足すると自分の体の脂肪や筋肉を分解しエネルギーを補おうとするので、筋肉が痩せてしまったり、免疫機能の低下を招く危険性があります。
何事にもバランスが大事で、バランスよく栄養を摂取することを私はお勧め致します。

私はグレインフリーを否定もしませんが、せっかく何万年もかけて人間との共存共栄してきた犬の食性を否定して狼などの肉食の野生動物と比べることは自然への原点回帰を狙い肉食としての本能を呼び覚ますという目標があるのであればそれは立派なポリシーと呼べるのかもしれません。

「どんな犬を育てたいですか?どんな犬になってほしいですか?」

私は野生味溢れる狼のような犬ではなく、名前を呼べば尻尾を振って来てくれていつもそばにいて抱きしめてあげられるような愛らしい今の犬の方が好きです。

【参考文献】
小動物の臨床栄養学 第5版 学窓社
基本からよくわかる 犬と猫の栄養管理 インターズー
動物栄養学 インターズー
臨床栄養学 インターズー